今回は、行政書士としてではなく、過去に人事担当者であったときの経験に基づき、書かせていただきます。
公務員を退職後、父が経営する会社へしばし従事して思いましたが、特に中小企業や個人経営の場合、残業代(超過勤務手当)を、請求された時間分だけ、満額(以上)で支給してしまうケースが多いように見受けられます。
また、いわゆる割増率に対する認識にも誤りがありました。
まず、労働基準法の原則的な規定ですが、「1日に8時間、週に40時間を超える労働をさせてはならない。」とされています。
これを、「法定労働時間」といいます。
そして、この原則を超えた労働時間を「法定外労働時間=残業」と呼びます。
ここまでの認識はほぼ共通だと思いますが、では、定時を過ぎてもいた時間すべて残業か?等という点で大きく異なり、違法又は不当な残業代の支払が行われている実態があります。
色々な事例があると思いますが、ここでは4つほど取り上げます。
【事例1】
(残業代欲しさもあり)勝手に行った自己都合による場合は、請求できるか?
これは、もちろん請求できませんね。
本来、超過勤務命令権者(上司や店長)から、時間外労働の命令を受けて、初めて発生するものです。
命令権者に対して、残業をしても良いかどうか、その都度、確認しましょう。
【事例2】
適法な残業を行った場合において、喫煙や夜食等の小休憩を何度か行った時間も込みで請求できるか?
残業代とは、本来業務の職務に専念した時間のみを指します。
タイムカードの入出記録だけで判断せず、きちんと「超過勤務命令簿」への記載を行い、本当に業務を行った時間分だけを請求・支給するのが筋です。
パソコン等の端末を落とす時間や、帰宅の準備(着替え)をする時間も残業には該当しません。
【事例3】
以下、割増率の問題です。
始業9:00 → 終業17:00(うち、昼休み1時間)であった場合、定時以降の残業はすべて、時間単価 × 1.25の割合で計算すべきか?
この場合、実際に勤務している時間は、昼休みを除く7時間ですので、前述した労働基準法の8時間を超えていません。
したがって、少なくとも17:00から18:00までの1時間については、時間単価 × 1.00で計算すべきであり、すべての時間を時間単価 × 1.25で計算するのは正しくありません。
まさに、不当利得です。
【事例4】
就業規則で、土日が休日と定められている場合に、土曜日に急な出勤を命じられた場合、「休日割増賃金」である時間単価 × 1.35の割合で計算すべきか?
これも、安易に休日出勤の割増率を乗じるべきではありません。
労働基準法では、週1日の「法定休日」を与えると定めています。
したがって、土曜日という1日が、その法定休日に該当するのか、又は就業規則により任意に定めた週休日なのかを考えなければなりません。
もし、単なる週休日であるならば、土曜日に働くことで、週40時間の制約を超える部分について、平日同様の考え方で、時間単価 × 1.25の計算を行えば良いこととなります。
1.35という数値が現れるのは、法定休日の場合だけです。
なお、繁忙期と閑散期が大きく分かれるような業態については、「変態労働時間制」という別の制度が設けられています。
その他、いわゆる「360協定」の問題等、代表的な労使間でのトラブルは多々ありますが、冒頭で述べたとおり、素人に毛が生えたようなレベルの知識ですので、参考になれば幸いです。